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園景

この 朝露を慄わせて咲く二本の薔薇

この 時をおなじくした歓喜のなかで

静かに もうひとつの脅威が目覚める

この小景いちめんに可愛い葉が揺れ始めると

青く燃え上がる空が庭にみとれる

羊歯の繁みに身を潜める長耳 そして耳

耳同志のひそかな朝の会話

桃いろの鼻さきを掠めて水蒸気が立ち昇る

おお この庭には一つとして同じものはないのに

なお すべては同じ空の下にある

いましも花の匂いを嗅ぎにやって来た風が

花房の耳もとでささやく千年の秘話

しずかに いま一本の花茎が

もういっぽんの開花へとその眼差しを向ける

おお 何という神秘の一瞬

下草を蹴った一羽の耳が 急いで灰色の巣に駆け戻る

そのとき 行く手からも駆け込んでくる耳

他でもない この静かな朝の庭で

ひとつに寄り添っていたはずの耳のなんという取り乱しよう

釣鐘草が揺れ 森もいっしゅん身震いする

書斎のなかで もの好きな風が本の頁を捲る

この花 そして庭の花 この耳 そして長耳

でも 庭の生垣ほどには読み辛いのか

ひとつ鼻を鳴らすと ぱたんと本を閉じ

風は 窓辺のおおきな枠をくぐって消える

おお この朝の庭に立って千年みつめあう薔薇

うなづきあい みとれあうだけのその疼き

                imuruta

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