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古い歌
いっぴきの魚が水に生まれ
つつっと泳ぎ きみの耳をくすぐる
たとえ魚がわずかばかりの骨と泡にすぎないとしても
きみの耳だって さわってごらん
そんな軟骨さえあるのかどうか
きみの耳のなかで
魚が数々のおもいでを語る
切れはしに過ぎない思い出にだって
ふかい慰めがあるだろう
たとえそれが とりとめのないものであったとしても
無意識のうちにそう信じていた
不透明さも 日の光も 死者も
きょうは口に含む 一片の草の葉と変わらない
花々はしずかに追憶にふけり
草の葉は淋しげにもの思いにふける
もしきみが放心して立つ広場の向こうから
ひしひしと押し寄せてくるものがあってそれが
たとえ壁だったとしても それを塞いだりしてはいけない
古い歌をうたってゆくよりない日もあるのだから
魚は思い出 花々は追憶 耳は手紙と
​             imuruta
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