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古い歌
いっぴきの魚が水に生まれ
つつっと泳ぎ きみの耳をくすぐる
たとえ魚がわずかばかりの骨と泡にすぎないとしても
きみの耳だって さわってごらん
そんな軟骨さえあるのかどうか
きみの耳のなかで
魚が数々のおもいでを語る
切れはしに過ぎない思い出にだって
ふかい慰めがあるだろう
たとえそれが とりとめのないものであったとしても
無意識のうちにそう信じていた
不透明さも 日の光も 死者も
きょうは口に含む 一片の草の葉と変わらない
花々はしずかに追憶にふけり
草の葉は淋しげにもの思いにふける
もしきみが放心して立つ広場の向こうから
ひしひしと押し寄せてくるものがあってそれが
たとえ壁だったとしても それを塞いだりしてはいけない
古い歌をうたってゆくよりない日もあるのだから
魚は思い出 花々は追憶 耳は手紙と
​             imuruta

これは ぼくの第二詩集<あすか路>です

 

​ 宮川淳の<鏡・空間・イマージュ>や<紙片と眼差とのあいだに>や そして豊崎光一の<余白とその余白 または幹のない接木> に読みふけっていたころの作品です。集中<七つの子>と<走る男>には土方巽の写真集<鎌鼬>から画像を引用しています。最後の<魔法瓶>には、耳に選ばれた作家、三木富雄の人の身長ほどもある巨大な耳の作品を引用しています。

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