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あすか路

したしげな 

ふたつの影があてどなく

水をさがして緑なす

夜のとびらをたずねて歩く

飛びかうものらの明日は遥か

風に掃かれてたなびくは

ゆくえ知れずの

髪のあすか

水底の小石に身を寄せて

魚さえ眠るこの夕べ

地名のひかりは露と結び

おまえの踝のあたりを浅く洗っている

浅くあらわれたこの夕べ

おまえのひと息ごとの胸の張りに

その色を浴び揺れている

揺れてやまない地色の火 石棚の夢

布を浸して霧は流れ

夜は溶けて おまえの髪も濡らす

幾たびも春の水を渡り

時をふり あさい色を残し

おまえのからだをただいちどの映しとなして

身を起こす 水のちから 夜の波

おお 草はにおい 水はその背をのばし

おのずから 名を呼びかわしては野を渡る

声こそいま におう緑 孕む水

空いっさんに水が走り

純白の星空ふかく舞い上げられる

魚と その私語

火を囲んでは影と映り

水を覗き込んでは魚となり

身をのけぞらせては 星と跳ねる

ひと知れぬ夜の仲間たち

だが その仕草を その叫びを

だれがふたたび水に返してやれるというのか

この夕べ 解かれた髪の火あとと化して

うなじにその名残りをとどめる地名の余白

うねりを その襞に残す

まぼろしの野 このまほろば

土は焦げても名をもとめ

名は余りを残しても 土とは還らず

​   *

掌に

わずかな水をのこして

飛ぶ鳥の

果てはいずこか

声は遥か

               imuruta

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