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風の土地

光りの下に自らを晒し続けた幾歳月

ここは盲いて白くなった円形の遺跡

かつては僧坊もあったようだが

いまは 幾つかの柱跡があるに過ぎない

鉛色にしずむ影の森を一跨ぎに

灰色にうねるひくい丘を馳せ来たる

ここは あまたの風の烏合の地

往くものは還り 還るものは往く

おりしも東の空に月が昇り

柱跡からながく伸びる影を映す

この白く浮かび上がった円形の舞台に

次々と追憶を踏破して影があらわれる

その相貌にどこか見覚えがあるような

だが目も耳も持たぬものらにどう問えばいいのか

その皺にあらわれた正視に堪えない不毛

どんな相克が どんな退化が起こったのか

いましも盤上に渦を巻いて風が駆け回る

草が騒ぎ 小石が巻き上げられ いま結びが解かれる

習慣を忘れ 度合を忘れ ありとある措定を回避し

​転位に転位を重ね ただ消滅も恐れずに風が走る 声が走る

掛かる声 地を揺るがして起こる読経

聴くがいい 居並ぶ僧侶らの

背後に起こる 声また声

それは如来の唱和か 風の瀕死の笑いか

破れ 虫喰われ

すでに失われた経典の上に

僧らも知らぬ異形の影が立つ

時を超え 空を超え 回る配置

見えず 聴こえず なお現れる手

いま 手から手へと渡された矢は

もう弓弦を離れると

四千八千の遠くまで飛ぶ

円形の舞台に 白い砂あらし渦巻き

影も沸き立ちざまに 次々と煌めきに変わる

丘の上で 星のように何かいっしゅん光ったようにも見えたが

それももう四千のかなた すでに名指しようもない

                imuruta

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