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島の上

まだ海があつく 陸がようやく

その姿をととのえようとしていた頃だ

あの 舟と呼ばれる仮のものたちが

時しげく おれたちの上を旅していたのは

粘土のうえに横たわる眠いねむり

ふやけてただよう斑点のおおい鱗

仲間のうちには気に入った泡を追って

水面ちかくまで昇ってゆくものもいたが

かれらが何か 利を得た試しはないのだし

舟と 言葉を交わす術があったのでもない

ただ 島の上に等身大の石の顔をみた

と言うものも居るにはいたが

薔薇色の雲は途切れるところを知らず

降りつづく長雨は水の窪地をくだり

おれたちの鰓やのどにまで入りこむ

おお 眠るよりほかに何が出来ただろう

時はたち 舟は流木の数々と化し

それらを操っていたものたちもいつのまにか消えた

すでに冷たくなり始めた水のなかで

時おり思い出す 歌の節々

水はひとつ 顔はひとつ うおの顔

泡のゆらり 水のねむり 石は思い出

口はひとつ 歌はひとつ うおの歌

海のゆらり 雨のさそい 舟は帰らじ

おお もっと近く寄るがいい

永くしずかに聞き耳を立てるものら

水飼いは去り 島の上には

巨大な石の顔だけが取り残された 

その口がもう語ることもないだろうが

どうして言える いつの日か

おまえの顔に あの熱い雨がふたたび降らぬと

あの思い出の歌が もういちど口をついて出てこぬと

                 imuruta

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