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羊雲

遠く 異境に立ち

はるか 地平線に目をやれば

羊雲が点々と流れ

うすい影が斑に落ちる

かつて 幾巻きもの経典を

東に運んだこの道も

いまは つゆ訪れるものもなく

いちめんの砂に埋もれたままだ

だが砂が夢

風の恍惚に耳を傾けるなら

光のなかで風が身籠る小石の歌を

小石のなかで光が身ごもる風の歌を

聴くことも出来るだろう

絹 更紗 ちょうど手に載るほどの香炉

そこに秘められたぬくもりが

よし おまえの耳ほどの重みを持たないにしても

塩と取り引きするほどの値打ちを持たないにしても

どうして石に叩きつけることなど出来よう

天空蒼々 地は漠々

虚空から虚空へと 砂から砂へと漂いつづけ

いずれ 布地の果てでひとつ息つく

だが どこで沙漠が終わろうと

駱駝の行程に終わりはない

光り絹 風が更紗の死線を越えて

まだ持って行かねばならないのは

この小石だ 小石のぬくもりだ

そこでもし 空の蒼さが先ほどまでと違って見えたとしても

なに気にすることはない 瘤にひと鞭あて走り去るがいい

                imuruta

これは ぼくの第二詩集<あすか路>です

 

​ 宮川淳の<鏡・空間・イマージュ>や<紙片と眼差とのあいだに>や そして豊崎光一の<余白とその余白 または幹のない接木> に読みふけっていたころの作品です。集中<七つの子>と<走る男>には土方巽の写真集<鎌鼬>から画像を引用しています。最後の<魔法瓶>には、耳に選ばれた作家、三木富雄の人の身長ほどもある巨大な耳の作品を引用しています。

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