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羊雲
遠く 異境に立ち
はるか 地平線に目をやれば
羊雲が点々と流れ
うすい影が斑に落ちる
かつて 幾巻きもの経典を
東に運んだこの道も
いまは つゆ訪れるものもなく
いちめんの砂に埋もれたままだ
だが砂が夢
風の恍惚に耳を傾けるなら
光のなかで風が身籠る小石の歌を
小石のなかで光が身ごもる風の歌を
聴くことも出来るだろう
絹 更紗 ちょうど手に載るほどの香炉
そこに秘められたぬくもりが
よし おまえの耳ほどの重みを持たないにしても
塩と取り引きするほどの値打ちを持たないにしても
どうして石に叩きつけることなど出来よう
天空蒼々 地は漠々
虚空から虚空へと 砂から砂へと漂いつづけ
いずれ 布地の果てでひとつ息つく
だが どこで沙漠が終わろうと
駱駝の行程に終わりはない
光り絹 風が更紗の死線を越えて
まだ持って行かねばならないのは
この小石だ 小石のぬくもりだ
そこでもし 空の蒼さが先ほどまでと違って見えたとしても
なに気にすることはない 瘤にひと鞭あて走り去るがいい
imuruta
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