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雨の鳥
時おり 風が葉を揺すると
地上に雫が落ちてくるほか
もの音ひとつしない灰いろの夜
繁みに隠れて 雨が夜明けを待つ
草はつめたい露を飲み
野は冷えた石を抱き
ひとつ またひとつと消えてゆく星を見上げる
森のなかでいちばんに歌い始めるのはだれ
この薄明にひかりを混ぜ合わせるのは
おお 東の空から透明な硝子の舟が一艘
光をいっぱいに積み込んでこの森に入ってくると
葉という葉がそよぎはじめ
いっせいに雫を振るい始める
いましも朝を待ちかねていた一羽の鳥が
真っ青な空に雨を曳いて飛び立つ
よく見れば 光沢のある青い翼は雨粒
白い羽毛の腹も雨粒
風切りからは 次々と銀色の雫が降りかかる
きみは想い出さないだろうか
垂れてくる汗を拭いもせず
いちまいの図版に見とれていた夏の図書室を
星めぐりの歌や 世界一周の果てに出会った二人の子どもの話を
もし 軒先に吊るし忘れたままのとり籠に
ゆうべの雨が溜まっていたら きみもきっと想い出すだろう
それはあの鳥 雨の鳥
ここではゆうべの森か 朝のとり籠にしか降らない銀色の雨も
あの国では きみの髪にやわらかく降り注いだのを
どんなに晴れていても 空には雨の匂いがする
そう 森から朝の歌がけっして消えはしないように
一つ目の森は きみの髪のなかに
二つ目の森は とうめいな雨傘のなかに
三つ目の森は とり籠のなかに
そう 雨の鳥など遠くに探しにゆかずともいい
晴れた朝に ちょっととり籠をのぞきさえすれば
imuruta
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