top of page
サラバンド
忘れものを取りに教室へ走って戻ろうとすると
いきなり 崖をころがり落ちるような
オルガンの音が音楽室から聞こえてくる
いっしゅん間があって 去年習ったトッカータだと分かる
きっと 黒板の上の額縁の中で
かつらをかぶった作曲家たちが耳を澄ましている
窓の外では 一音も聞き漏らすまいと
メタセコイアの若木が 静かに耳を傾けている
読みかけのパルメニデスの本をカバンに入れて
もう誰もいない教室を出ようとして
ふと 時間が止まったような錯覚におそわれる
あの校舎 あの教室 あの幕間
それはシャボン玉の中と外からみつめ合っていたような
誰かに呼ばれたような気がして振り返ってみたが
やはりきみはもう居なかった 廊下に出ると曲は
いつのまにかヘンデルのサラバンドに変わっていた
imuruta
bottom of page