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花守
むかし 花守という象がいた
江戸に伝わる老桜園の桜守りをしていた
桜もそうとう老いていたが
象もまた 桃山時代からの遺物で
頭は禿げ 全身うすい灰色をしていた
象の日課は歌やり 花巻き 小虫取り
ところで 桜の大樹は
どの一本をとってもじつに見事だったが
じつは 象の身の丈はその倍近くもあった
満開の森に膝を折ってしばしまどろめば
巻き絵のような雲が風に流れていた
象に故郷はなかったが ここが故郷だった
桜の花びらの一枚いちまいに その夢をたくす時
まるで吹雪となって花びらたちが
象のまわりを取り囲んでは散り初めていった
こうして千年の夢をはらはらと散らすとき
生きてあることの喜びが じつにのんのんと彼を包んだ
ああ 象こそがこの森を守ってきたのか
桜の花びらの一枚いちまいこそが象を守ったのか
今となってはもう この老桜園でさえ
あなたのこころのなかにしかない
むかし 花守という象がいた
桃山に伝わる老桜園の桜守りをしていた
桜もそうとう老いていたが
象もまた 飛鳥時代からの遺物で
頭は禿げ 全身うすい桜色をしていた
imuruta
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