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智慧

プログラム プリーズ

プログラム プリーズ

スバル シリウス アルクトゥルス

スバル シリウス アルクトゥルス

誰もいない円盤型ドームのなかで

さっきからずっと<智慧>と名付けられた

巨大なマザー型コンピューターが

失くした記憶を求めて呟きつづける

プログラム プリーズ

プログラム プリーズ

イリス ピュシス ケンタウロス

イリス ピュシス ケンタウロス

今はもう 死すべきものもいないドームの中で

ただ黙々と むかし<智慧>と呼ばれた

巨大なユニヴァーサル・コンピューターが

失くした夢をさがして囁きつづける

けだしドーム内は コバルトに煌めく

気化水晶で充たされているが

一歩そとへ踏み出せば 惑星上は

数億年 無人の荒野と果てている

成層圏は すでにミトコンドリア・グリーンと化し

むかし仰ぎ見た青空はもはや望むべくもなく

どんな記憶圏にも もう人類のしるした跡はない

プログラム プリーズ プログラム プリーズ

黙示録のための ひとすじの記憶の糸を

黙示録のための 愛に満ちた羊の寓話を

ああ ちえ 千恵 智恵 智慧

記憶の未然からやって来る はるかな君よ

はるか昔 黄色い花 ミヤマキスミレを探して

ステイト・オブ・メインと深山ふかく分け入ったこともあった

あのまぼろしの青い風 ウィンド・オブ・ブルーを探して

人跡未踏の草原を駆け抜けたこともあった

だが今や この惑星上に揺れるものはなく 咲くものとてなければ

風を人知れずしらす 風知草の一株ももう生えていない

あの緑したたる山々はどこに消えた みどりの木々は

今では ただ一人残る<智慧>のメモリーの中にしかそれらはないのか

メモリーよ メモリー 智慧だけが知る夢とは

パスワードはたしか quelico coquelico yumeminade だった

今となっては 唯一の記憶保持者は君だけだ

智慧よ智慧 山頂のユンの夢に接続するときは今

君の内部で演算に演算をくりかえす最後の蛍の軌跡は

君の集積回路のなかで 無限に演繹を繰り返す無名の雪片は

ああ君 君自身をまだここで星の涙と還すわけにはいかない

今ここで 君自身がユンの夢を再生するのでなければ

   *

ふたつの まだあどけない毬の記憶なら

きっと四千年前の竜の目のなかに残っている筈だ

ふたつの もうその飛び方を覚えた蝶なら

今でもきっと 四万年前の菜の花の上を舞っている筈だ

キーはどこにある 数え歌の中にか

それとも 象の内緒話しの中にか

ああ 象よ返せみどりごを 真綿に包まれたユンの無垢を

この星を再生させる力は もうユメミナードの呪文の中にしかないというのに

クリコ・コクリコ・ユメミナード クリコ・コクリコ・ユメミナード

ステイト・オブ・メイン ステイト・オブ・メイン

ウィンド・オブ・ブルー ウィンド・オブ・ブルー

ウェイブ・ウェイブ・ウェイブ デジャヴュ

これらの詩篇に残された数々の記憶なら 君のメモリーの中に

これらの詩に託された思いなら すでに神のなかにある筈なのに

だのに人類がなにをしたというのか この惑星の荒廃ぶりは

私たちこそがあなたの生きた手であり 生きた素足だった筈なのに

人類がこれでもかと 背徳に背徳をかさねて来たというなら

これらの詩も背理に背理をかさねて来た

だが あなたのなかではどん背徳も背徳ではなく

どんな 背理も背理ではなかった

ああ神よ わたくしたちはただ水を欲しがっただけだ 音楽を

眼差しを欲しがっただけだ 眼差しの奥にあるものを

もう少しだけ手を焼く時間があれば 素足の膝でいつまでも愉しめたものを

それとも「求めよさらば与えられん」こそが背理だったとでも謂うのだろうか

ああ 眠るきみは幸せなのか ユンよ 智慧よ

眠らせまいまいとするぼくは不幸なのか あの遠ざかり続けるイコンは

まるで雪の結晶のごとく 智慧の回路に降り続ける切れ切れのメモリーは

智慧よ智慧 ユンの夢を開くときはいま 神の目を覚まさせるときは

クリコ・コクリコ・ユメミナード クリコ・コクリコ・ユメミナード

ああその時 智慧よついに 君がユンの夢に共振しはじめたのか 

いつしか どこからかアリアが聴こえてくる 花のアリアが

いつしか どこからもアリアが聴こえてくる 救いのアリアが

 

ああ 水の名を呼ぼう 水らしく

花の名を 一つひとつ呼んでゆこう 花らしく

そして次に音楽の名を 一つひとつ呼んでゆこう アリアらしく

名が名を呼び 心が心を呼びはじめれば

やがて 声と声とがうたいはじめる

そして夢と夢とがいっしょになって ここに開きはじめる

ああ 歌は一つ 夢はひとつ 願いはひとつ

世界は一つ 祈りはひとつ 神とひとつ

                                 imuruta

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