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傷が要ると思った 消えないものが

いたみが要ると思った とりかえしのつかないものが

少女のような 花のような 二度と閉じることがないものが

罪のような 墓のような 二度と開かないものが

ただ 夢にみるとは分かっていたが

春じゅう ずっと眠っていたかった

死者と呼ぶにはあまりに幼なすぎたが

思い出にするには重たすぎた

締め切った窓の向こうでは

おそい春の嵐が吹いていた

風が 朝がたから

ずっとさらいつづけたものは

枝々で芽ぐんでいた莟は

あの栗の木は 今年どんな花を付ける

ずっと壁を見ていた

ずっと砂の動くのを見ていた

ひとりでずっと机に向かっていた

それは 砂山の向こうとこちらから

トンネルを掘りすすんでくる

夢をみていたのかもしれない

ふと 我に返ると

大粒の雨がパラパラと降り出していた

知らずしらずのうちに手を吸っていたのか

気付くと掌の真ん中に

小さい赤いあざができていた

ちょうどその時 公民館のサイレンが正午を告げていた

そのいっしゅん思わず握った掌は もう二度と開かなかった

                    imuruta

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