top of page
​彗星

おおきな弧を描いて彗星が

見上げる銀河を斜めに横切っていった夜

ぼくらは ひとすじの青い炎となって

初めて たがいの胸のなかを捜しあった

あの彗星はどこから来て どこに落ちてゆくのだろう

そして ぼくらの日々はどこにその終点を見つけるのだろうかと

大きな啓示に怯えつつも ただ無性に求めあった

おおきな弧を描きながら彗星が

この二つとない地球をめぐっていった夜

ぼくらは 二度とほどけることのないあかしを求めて

何度もなんども たがいの目の中を捜しあった

もう二度と壊れることのない夢を ここに見いだそうと

時の波になんど洗われようと果てない夢を ここに繋ぎとめようと

ぼくらはその夜 何にあれほど急かされていたのだろう

こんなに苦しく見つめあつて それでも二つある瞳と瞳は

どうしても どうしても二つあるからだとからだは

ああ こころとこころを結ぶためにたったひとつ要るものは何か

ぼくらにはもう 時を止めるよりほかにすべはなかった

   *

おおきな弧を描いて彗星が

二人のかけがえのない夜を渡っていったとき

ぼくは きみの目のなかに揺れるすみれを捜し

きみは ぼくの目のなかに流れる銀河をさがした

ああ あの夜の彗星はたしかに約束の時へと落ちていった

あの夜の彗星は たしかに二度とない光芒を放っていた

なのにまだ ぼくらはこうも目を閉じられずにいる

                  imuruta

bottom of page