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​尊厳

走ってきた 声を限りに走って

叫びながら来た どこから来たかも分からずに

そして振り返った時 涙のかぎりに太陽をにらみつけていた

風だった 木だった 石つぶてだった

駈けてかけて 駈け抜けてしまいたかった

もう戻れなかった どこにも

気づくと 右手に何か筒のようなものを握っていた

それは手だった 心だった 止まらぬ息だった

空だけが まるで思い出のように晴れていた

草にどっと倒れたとき 地平線に火を見た

耳もとで滝の音がしていた 火のはぜる音が

もう取り返せなかった 何もかも 何ひとつ

尊厳について考えていた 威厳について

山について考えていた 火について

何か 乳房のようなものにすがっていたかった

ひと知れず 草を引きちぎっていた 言葉を

ひとりで風を追いかけていた 山を

山だけが思い出だった 校庭だけが

気づくと あたりいちめん草は火に包まれていた

誰かの胸を どうしようもなく叩いていた

ああ尊厳とは いのちの尊厳とは

道とは 限りあるいのちとは

静かに しずかに熊だけが守り通した真実とは

そのとき熊より他 誰に自分を絶つことなど出来ただろう

いつも美しいものにあこがれていた

いつもやさしさに飢えていた あなたの心からのやさしさに

ずっと信号を送りつづけていたのに

誰一人 だれひとり気づきはしなかった

やがて ぼくが目を開けたとき

ぼくは 地平線のかなたで火を放っているひとりの男を見た

ああ ずっと吸っていたかった 叩いていたかった

だがぼくにはもう 次の扉を開くよりほか道はなかった

                      imuruta

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