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ユン

ユン 君の頬熱いか

小降りになったとはいえ

雪は 雪の結晶は

まだ 夜空の果てから舞い落ちてくる

雪は天上華の花粉か それとも銀河の飛沫か

ひとつとして同じもののないこの無限のアステリスクは

今あらぬ方で さいごの

蛍のような軌跡を描いていたかと思えば

君の頬にふれたとたん 星の涙と変わる

マッターホルン キリマンジャロ アララット

すべて山頂には神が宿るという

箱舟の残骸を捜そうと君を誘って

ようやくアララットの山頂まで来たというのに

疲労困憊か 昏睡寸前か

君はすっかり眠りこけて叩こうが揺り動かそうが

なんとも君は起きない

君は もう行ってしまおうというのか

ぼくをこの山頂に一人残したまま

ああ 神よ何処にいる 意識はどこにある

あの古いふるい言い伝えを信じてやまずここまで来たのに

今しも君は 目を閉じたま痙攣するかと思えば

次には もう自分では面倒見切れなくなった頭蓋を

そっとぼくの腕にあずける

クリコ コクリコ ユメミナード

クリコ コクリコ ユメミナード

だが 山頂には樹木いっぽん見えず

見渡せば まるで恒星界のごとく茫漠としている

ユンよ 起きろ

もうそこまで神は来ている

ユン 眠るな 起きろ

もうそこに 神の新世界は開こうとしている

あんなに夢みたぼくらの新世界

ああ あんなに恋しく待った愛の新世紀は

だのにユンよ 君はまるでユルミナーゼを飲んだかの如く

深くふかく眠り続ける

もしかしてユンよ君は

箱舟の如く四十日四十夜眠り続けるつもりなのか

君の赤ん坊のような額をよくよく見れば

その額には すでに

あのメタセコイアの樹形が浮かび出ている

そう言えば 君の洗礼名はプリンキピア・ユメミナードだった

クリコ コクリコ ユメミナード

クリコ コクリコ ユメミナード

君は夢の 夢のまた原初へと遡ろうとしているのか

クリコ コクリコ ユメミナード

クリコ コクリコ ユメミナード

ぼくはここにいる この夢のなかに

君はどこにいる 意識はいったいどこにある

ああ 四十日四十夜ののち

君は その眠りの舟を果たしてどこに着山させるつもりなのか

おお アララットよ 神の山

夢にも そのとびらを開く時はいま

   *

シンシンシン シンシンシン シンシンシン

どこからか鈴の音が聞こえてくるのは

今夜が地上で祝う さいごの聖夜だからか

シンシンシン シンシンシン シンシンシン

それともなにか迎えのものが

彗星の尾のようなものが近付いているのか

君はいま夢のなかで いったい誰と交信している

誰か精霊とか それともゆいいつの神とか

ユンよ 地上に降りしくこのくすしき光は

この名状し難いしじまは

ぼくの指をいっぽん残らず凍傷に変え

君の額に永遠に消えぬ罅の数かずを生じさせ

ああぼくら まるで

歳月を経たフレスコ画のイコンのようだ

シンシンシン シンシンシン シンシンシン

でもこのまま夜が明けなければ

ぼくだっていつまで持つものか

ああ ユンよ眠るな

君の頭蓋はぼくが抱いて放さない

                 imuruta

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