ゆめのくに
毎日まいにち 象工場で働きながら
たまの休日には 夢屋で買い物もする
きちんきちんと夕暮れには部屋に帰るけれど
ほんのりお酒の回った夜は
だれかの肩にもたれてみたい
年内の目標といって 特別ないけれど
ショートスカートの似合う脚になりたい
そして 我がまま言えるボーイフレンド持つの
夢屋で買うものといって
メモワールの下着か 象印のワッペンくらいだけど
今度のお休みは お給料日のあとだし
足を伸ばして 隣まちまで行ってみるんだ
隣まちには 足屋というプリントショップがあって
おもにレッググッズを扱っているが
市販のストッキングに飽きた若い子たちに人気だ
店に入ると 所せましと足が並べられているが
とりわけマルレーネの商標の付いたものは逸品だ
これをいちどプリントしたら 他のは安っぽくて付けられない
何より その透明感と付けごこちが素晴らしい
もちろんブラやショーツもプリントしてくれるが
ちか頃の印刷技術の向上には
ほんとうに目を見張るものがある
そして驚くべきことに ここのプリントスカートは
風にもびみょうに反応して 鮮やかに捲くれあがるのだ
店のおくには鼻めがねを掛けた
如何にも老舗らしいおお旦那がすわって
あれこれ若いスタッフに 肌に合わせたインクの配合や
ドットの調整など 的確な支持をあたえているが
ときどき後ろの棚に吊った ひと目で玄人向けとわかる
ミンクや銀狐のコートの裾に
そっと ひと目を盗んでは
短くない鼻を伸ばしている
休日のショッピングが終わると
子どもっぽいと笑われるかもしれないが
つぎは町はずれの ひみつの遊園地だ
高くそびえたつ観覧車に乗ったり
コーヒーカップも好きだけど
やはりお気に入りはメリーゴーランドだ
ちょっと変わってるのは
この町のメリーゴ-ランドは 木馬じゃなくて
わが社が日々製造している象なのだ
そしてこれは企業秘密なのだが
遊動円盤がゆっくりと回り始めると
その鼻が サラバンドの音楽に合わせて
いとも優雅に かなしげに動く
その背中に乗れば
だれもがその鼻の動きに見とれるが
とりわけ若い子たちは
鼻の先が求めているものに敏感で
なみだをこらえながら
いつまでも降りられない子がたくさんいる
きょうは足屋でとびきりキュートなスカートをプリントしてきたので
お気に入りの象に跨れば ふたりきりのゆめの世界
象の愛らしさが その極みに達するまで
いつまでも いつまでも
じぶんでハープシコードを弾いている気がして
その肩から降りられない
imuruta