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円舞曲

今は昔のこと アイスランドデルフィの咲きほこる森陰に

カンパニュラのような屋根をのせた

一軒の小さな家がこっそり建っていた

よく手入れされた庭には 季節の花が咲き揃い

ブルーバードコニファーや匂いヒバのすき間から

その色とりどりの可愛いい顔をのぞかせていた

風にのって快いハミングが聞こえてくるのは

きみが朝のコスメティックをもう終えようとしているからか

その日の気分でコスメを決めると

きみはようやく その日着る服を選びだす

クローゼットのなかにはきみの裸身を飾らんと

じつに多様な色柄のワンピースが吊られているが

不思議なことに どの一枚も光の加減で

その水晶のような光沢を変えたことだ

やあおはよう という声が木戸のところでして

ふたり さんにん よにん 七人と 今日も

遊び好きな小人たちがやって来る

なかのふたりが庭しごとを始めると

もう二人が 居間のリファインをはじめて

残った三人が 今日はウェッジウッドの滝へ

ほたる静かの根をさがしにゆこうと

三人三様の笑顔でさそう

きのうはきのうで グランドアカンサスの葉を摘みに

ローゼンタールの沼に出かけたし

そういえば あの時

アカンサスの葉から飛び立った紫てんとう虫は

わたしのプリーツの多いスカートの中を

こともなげにくぐりぬけると

ヒマラヤシーダのたかい梢へと姿を消した

おとといはおとといで プレランスの森のあき地で

ブルーポピーの花を集めていた時も

マユミトンボがすいすいと

いともたやすくわたしの足のあいだを往き来していた

このウィークエンドには

いよいよ 森の舞踏会だというのに

この小人たちはいったい ほたる静かの根や

アカンサスの葉や プルーポピーの花で

いったい どんなドレスを作ってくれるというのだろう

もし 舞踏会の日までにドレスが出来なかったりしたら

今さら 王子さまのお誘いをお断りするなんて分けにもゆかず

七人の魔法の手を信じるよりほかなく

たしかに 夜おそくまで糸をつむぐ音

はたを織る音がせわしげにしていた

さて 待ちにまったその日がやってくると

朝から七人は 勝手知ったるこのからだに

あれを着けさせ ここをあげ

そこのギャザーをもっとふっくらとと

さいごの仕上げによねんがない

ようよう鏡のまえに立ち ことと次第を見極めると

それはそれは ウェディングドレスのような

純白にみえて じつはクリスタルに光り

ふかい緑にみえて 瞬時にむらさきに映る

じつにすてきな夜会服が仕上がっていた

あまりの見事さに 鏡のまえで

いちど廻ると色が変わる

二度廻ると 光りにかわる

そして三度まわると そこには

いっしゅん 一糸まとわぬ若い娘がかいま見えた

どうしよう 王子さまの好きな円舞曲

どうしよう ワルツだったら空のつばめほど舞えるけれど

それに今夜は 

月から彗星アンサンブルまで呼んでいると噂なのに

廻ればまわるほどに ブルーポピーの花散り

アカンサスの葉飾りほどけ

ほたる静かの糸

いっぽん残らず透けてしまえば

ああ 最後に廻ると

もう どうにも隠れようのないわたしが

王子さまの腕のなかに

           imuruta

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