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​キスリング

ごめんなさい 

せっかくキスリングに来て頂いたのに

明かりを落として話しこむうち

ぼくは すっかり忘却していた

ところで キスリングとは

登山用のリュックを発明したスイス人

それとも あの大きな瞳の少女を描いた

エコール・ド・パリの画家

あの日 あの夜

あの瞳は いったい何に見とれていたのか

暗くした室内で きみはぼくの話していることの

一つひとつにうなづいてはいたが

こころ ここにあらず風で

ただ 唇のなかで舌のたてる音にだけ耳を澄ましていたような

ぼくはぼくで すっかり具象の欲望を失くしていた

キスリング それは恋人たちが

甘いキスを交わし合う まるいリング

キスリング それはかけがえのない穴のあいた指輪 

そこだけ何からも隔離された追憶の小部屋 謎の輪

                imuruta

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これはぼくの第五詩集<イザーイ>です

 

​詩とは何か 詩とは、敢えて言えば思考の不可能性に対する 果敢な挑戦である 詩は、その第一行目からとある文脈を提示する そして、二行目以降はその展開でありながら、つねにすでに間断なく

思考に挑戦しつづける 状況把握が必要なのか あえて書かなかったことを推理する力が必要なのか、それとも、ただ直観を信じてひたすら読み進む力が必要なのかは、あなた次第だ 何にしても、ここにひとつの求心力を提示したかった 詩は、つねに日常言語を模倣するが、かならずや もって非なる世界を提示する

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