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​愛の国

夏は まっぴるまから

ハンドシャワーで涼を取って

すずしい目くばせ送り合いながら

ふたりで深い息を交わそう

深く息を吸おう ふかく

深く息を吐こう ふかく

ときにするどく見つめ合おう ときに鋭く

ああ 愛はふたりのもの 神のお手のもの

きみが ビートの効いたのりではだかの腰を振ると

ぼくは水びたしのからだで

神の宣教師よろしく ふかい祈りを捧げる

きみが振り向いて誘うと

ぼくはありったけの背筋を伸ばして

きみに神の恩寵を与える

おお 誰はばからぬ飛沫のしたで

きみが濡れれば ぼくも濡れる

きみが腕を ぼくの腰に回せば

ぼくの手もしぜんと回る

深く息を吸おう ふかく息を

深く息を吐こう ふかく息を

きみの表情をかいま見れば 

ぼくがもう 禁じられた呼吸法を伝授するまえから

時すでに 法悦にひたっている

高窓から蝉しぐれが間断なく降り注げば

胸も高まる えみもこぼれる

きみが回れば ぼくも回る

庭の中央では 時が止まった桂の木が

まだじっと暑さに耐えているが

ここは別天地 時の別天地

ぼくらはここにいて ここにいない

いっしゅん シャワーの音が遠のくと

きみは 黒い羽根を折りたたんで

天を見上げているが

小首をかしげたとたん

アマツバメに化けて

愛の国の空高く舞うことも出来る

ああ きみの腰 しろい腰

思わず鼻が伸びて きみを抱き寄せると

ぼくは水浴び真っ最中の

長鼻目アフリカ象に変貌している

深く息を吸おう ふかく

深く息を吐こう ふかく

ぼくら 寸分狂いなく呼吸を合わせれば

たとえシャワーの音がもどって来ようとも

ここはどこも 愛の国

             imuruta

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これはぼくの第五詩集<イザーイ>です

 

​詩とは何か 詩とは、敢えて言えば思考の不可能性に対する 果敢な挑戦である 詩は、その第一行目からとある文脈を提示する そして、二行目以降はその展開でありながら、つねにすでに間断なく

思考に挑戦しつづける 状況把握が必要なのか あえて書かなかったことを推理する力が必要なのか、それとも、ただ直観を信じてひたすら読み進む力が必要なのかは、あなた次第だ 何にしても、ここにひとつの求心力を提示したかった 詩は、つねに日常言語を模倣するが、かならずや もって非なる世界を提示する

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