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​ミシェル

何をさがしているのって聞くと

アカンサスって答える

たしかきのうこの辺で見かけたのにという

砂場の四隅にはギリシャ神殿を思わす石柱が立っているが

裾捲きの葉飾りまではない

その代わり まるで神話に出てきてもおかしくない

大蛇のような藤の幹が四方から絡まり 這い登っている

蛇は 蛇はひとびとのこころの貧しさから

いっときもはやく 逃げ出したい一心で地上に出て来たのか

たとえどんなに苦しくても どんなにせつなくても

天を 天を目指せばそこからあとは

ゆたかな花を降り下ろせると おのがじし知っているから

こんなにも もがいているのか

時は五月 竹を組んだ碁盤の目からは

夥しい紫の花房が垂れ下がっている

花は 花は人々のいのりの数だけ開き

ひととき こころのすき間を埋めると

いっしゅん おのがじし白鳥の歌をうたい

恋しくて 恋しくてたまらない祈りの中へと帰ってゆく

きみはきのうも同じことを言った

そしておとといも

きみは藤の根方を一周すると

なにかぶつぶつ言いながら

砂場の隅にうずくまる

時間は止まったままだ

さっきから熊蜂が

紫いろの花房を一つずつ捜して回り

思い出を狩るのに忙しい

誰をさがしているのって聞くと

ミシェルって答える

それはどんな人だったのって聞くと

黙って人差し指を唇のまえで立てて

こみあげてくる涙を落とすまいと花を見上げている

そしてそこには きのうと同じ紫の花房が

花は それを必要とする人の

誰にも行き渡るものではない

花がないゆえ苦しんでいる人もいる

だから だからミシェルは花の代わりに

自分を じぶんの身につけているものを

そこまで言うと あふれる涙で

もう その先をつづけることはできなかった

はやく行きましょう

ここで 止まってしまった時間のなかで

いつまでも うずくまってはいられない

丘のうえに 石を積んでお墓をたてるの

一つ目は ミシェルのお墓

ふたつ目は あなたのお父さんのお墓

だから どうかゆるしてと言うと

じっとぼくの目を見た

              imuruta

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これはぼくの第五詩集<イザーイ>です

 

​詩とは何か 詩とは、敢えて言えば思考の不可能性に対する 果敢な挑戦である 詩は、その第一行目からとある文脈を提示する そして、二行目以降はその展開でありながら、つねにすでに間断なく

思考に挑戦しつづける 状況把握が必要なのか あえて書かなかったことを推理する力が必要なのか、それとも、ただ直観を信じてひたすら読み進む力が必要なのかは、あなた次第だ 何にしても、ここにひとつの求心力を提示したかった 詩は、つねに日常言語を模倣するが、かならずや もって非なる世界を提示する

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