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​ホテル・ドルフィン

もし君が 実人生に飽いたら

ホテル・ドルフィンに来たまえ

遠くに 蓬莱山の山なみを眺めながら

初夏のころ 中庭のプールに出て泳げば

君の濡れた頭上を 幾羽もいくわも

黒い燕尾服を着たつばめが飛び交っているだろう

もし君が ほんとうに実人生に飽いたら

是非 ホテル・ドルフィンに来たまえ

簾を巻き上げて蓬莱山の山なみに目をやれば

点在する白雲の下 遠くちかく果てしなく

燕尾服を着た言葉が 飛び交っていることだろう

庭のそこここに 栴檀の古木が植わっているが

その立ち姿 遠目に見れば

まるで群れを離れた象にも見えて

のじのじのん のじのじのんと おのが影を踏んでいる

ほら そこここで象たちが君とジンタを踏みたがっている

君 きみはいつまで逗留できる

今にもプールの淵にあがってきた君が見える

紺色のワンピースの下からこぼれ続ける水滴

遠くカトマンズの方から 風に乗って唱名の声も届いて来るだろう

お聞きなさい静かに

ここでなら君のせんさいな指も 揉みほぐせるだろう

何もいつもいつも指にリボンしてることなんてないし

指順をいじめてまで音楽に奉仕する必要もないのだ

鍵盤の上で疲れた指を ここでこそ介抱してやるがいい

もう 人差し指と小指を取り替える必要もないし

指と指とのあいだの水掻きを恥ずかしく思う必要もないのだ

ほら 同じ音楽をしていても象のジンタ無理がないから

鼻で旗を振っていても まるで夢のように見える

もし君が実人生に飽いたら

ホテル・ドルフィンに来たまえ

パッシュ ドルフィネ パッサカリア

はて 君のとなりを夢遊するがごとく伴泳するものがあれば

その 夢のようにみえる横顔をとくと見るがいい

彼の凡人にないプロフィールを見るとき

君も心の奥深くで きっと畏怖の念を覚えるだろう

その耳殻は とうに退化して無いが

はて 周波数を変えて話せば

彼の耳ほどふかく遙かに聴くものはない

もし君が 実人生に飽いたら

いつでも ホテル・ドルフィンに来たまえ

いずれ第五海中期はもうそこまで来ている

指に指をかさね 水掻きに水掻きを

ひと知れず紺色の燕尾服に 君の裸の肩を寄せれば

自然と指使いも 優雅なものとなることだろう

蓬莱山の山なみふかく 遊子流れゆけば

水の中では ありとある周波数の声がこだまし始める

そのとき君も 心ゆくまでこの水にその背を伸ばすがいい

実は 実にみえてすべてまぼろし

こころ 心はるかに舞うところにこそ真実はある

じつにその時だ のじのじのん のじのじのんと

水辺りに象がやってきて くすぐった気におよぐ君の裸心にみとれるのは

                         imuruta

ぼく名は不思議人<imuruta> ここに紹介
しているのは ぼくの第三詩集<愛の新世界>
ペアを組んで ひとつの夢の世界を構成する

<月下の道>です これらの詩は遠い処から来た
それはまるで この地球に降りたつと同時に
記憶喪失に陥ったかのような 遠い夢の破片から
「私を忘れないでいて欲しい」という 何かか細い
星からのメッセージのように ぼくの耳には
聞こえました ぼくは耳の奥で呟き続ける
これらの声をここにしるしました 皆さんの耳には
​どんな風に聞こえるか分かりませんが・・

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