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あかい靴
木立の上には夜が欲しい 苔むした松の根方には
石の上には夜が欲しい 静かに金魚たちが寄り添ってねむる水の上には
きみは松の新芽を折ってみたことがあるかい 鼻をさすその樹臭
剪定に剪定を重ねて ついに亀甲を描く松ヶ枝の間隙は
けだし 誰知らぬ水の底で 一尾一尾ねむる夜の魚たち
誰知らぬ夜の枝で 一羽一羽ねむる神の子どもたち
夕刻に生垣で咲いていた二輪のてっせんの上にも
今はひっそりとどくとくの気配で 夜が舞い降りていることだろう
てっせんの咲くそこだけ濃く匂い立つ紫は
先年あかい靴を履いて異国に行ってしまったきみは
誰知らぬ夜の底で ぼくはひとり文机に向かいながら
しぜんと口をついて出てくる唱歌を 繰り返しくりかえし歌ってみる
歌だけがつなぐ心の世界とは いま枝と枝に分かたれた小鳥たちは
歌だけがつつむ心の交わりとは いま水底でねむる心の魚たちは
ああ あのちさい靴 あかい靴 きみの靴
出来ることなら このふかい紫で心ゆくまで包んでやりたいのだが
imuruta
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