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木の時間
木の時間 木のみえない時間 あいだの時間
木の時間 木のねむりの時間 木のあいだのあいだ
ひと粒の種が地に落ち 落ち葉に包まれその冬を越し
教えられた通りに 春になると芽を出し
初めての葉を開き やがて数葉づつ開き
ゆっくりと 目には見えない速度で成長し
一年経ち 二年経ち 十数年を経てやっと若木と呼ばれる
ブナ ニレ カツラ クヌギ ユリノキ ハンノキ
成長するまでに幾十年もかかる大木たち
山深く入れば その葉一枚いちまいのそよぐ音まで聞きとれる
ああ 呼びかける声が ほんとうに声らしく聞こえる
傍らを歩く靴音が ほんとうに靴音らしく聞こえる
いま はじいた指からは ほんとうに弾けた音が聞こえ
たたいた手からは たたかれたばかりの音が聞こえる
それが もの言わぬ過去のことだったとしても
傍らを歩く足音が靴を履かない種族のものだったとしても
それは鼻息だったかもしれない
あるいは落ち葉を踏む音そのものだったかもしれない
それはある音を介して とつぜん
あいだのない世界に呼び込まれたのか
シイ アカガシ クスノキ ケヤキ イチョウ ヤマザクラ
これらが 本来の威容を備えるまでどれほど時間が要るだろう
木の時間 木のあいだの時間 あいだのあいだの時間
物語の時間 物語に固有の時間 そして物語のあいだの時間
それは譜面と譜面のあいだで止まったままの時間を
いよいよ開かせるときが近づいていたのかもしれない
振り向けば真うしろに コブシの花が咲いていた
imuruta
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