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​月の沙漠

月が見降ろす 夜の沙漠を

いちれつに並んだ象の隊列が行く

砂が舞って 砂が舞っては

象の足もとを鴇色の靄で包むが

金の鞍は その額に垂れた錦織りは

黙って 俯いたまま横を歩く象使いたちは

銀の鞍は その一頭いっとうの背に括られた華奢な荷は

金襴緞子か 銀の鹿の子帯か

それぞれに 一つひとつ思い出のある品々は

そして こころに秘めた漆塗りの文箱は

なかほどの一頭の背に

おおきな駕篭が載せられているのは

なかに 嫁ぎゆくきみがひとり乗っているからか

象たちが私語ひとつ交わさないのは

きみのこころを計ってのことだろうか

それとも 虚空に掛かる月のせいで

これらすべてが こころの影絵になっているからか

ああ 靄が隠す象たちの足もとは

今日まで歩んできた きみのこころのあとは

誰が弾くのか 胡弓の調べは

超えても超えても 砂また砂

鞍が揺れれば 駕篭も揺れる

駕篭が揺れれば 心も揺れる

誰が奏でるのか 風の調べは

越えてもなお 越せぬ思いは

道が揺れれば 砂紋も揺れる

風が揺れれば 影絵も揺れる

ああ 誰が用意したこの密かな道

この鴇色の道 砂の道

神よ神よ この象の道をたどってしか

あなたへと至る道はないのか

道よ道よ あとにした国は

いまや 遥か記憶の小箱のなか

あとにしてもあとにしても あとにできぬ胸の思いは

ああ 心の日々をつかの間いろどった月人のおもかげは

この ひとり月の見降ろす夜の果て

いとしき人はいずこに ひとはいずこに

                imuruta

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