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​翡翠

夏は翡翠を捜しにゆこう カワセミを

夏は清流を見に行こう 夏は清流を

夏は 山あいふかく分け入り

ヒグラシの声を聞きにゆこう ヒグラシの声を

ほら 空は抜けるように青く

いっときも休まず水が岩間を駆け抜けると

ここはすでに別天地 ここは別天地

きみの麦わら帽の下には そこぬけの笑顔がある

ねえ 蝉の声が固まったにしては

どうしてこうも岩は ごつごつしているのだろう

ねえ 水のくせに流れを手に差し込むと

どうしてこうも 強く押し返すんだろう

これじゃ 岩魚だってたしかに

流線型の岩に化けなければ押しつぶされてしまうねえ

じゃあヒグラシは なにが固まって出来たのだろう

まさか 木の蜜にヒスイの羽根が生えた分けでもなかろうに

せっかく人がしゃべっているのに

きみはうわの空で耳を貸さず

さっきから おおきな舟石のうえで寝転ぶと

すっかりヒグラシの声に聞き入っている

シーンシンシンシン シシシシシーン

シーンシンシンシン シシシシシーン

これで一句だ

シーンシンシンシン シシシシシーン

シーンシンシンシン シシシシシーン

これで二句だ

山には 山の詩人が千年も前からいて

その細い声で 今日もきみに歌い続ける

ねえ カワセミ来ないだろうか ヤマセミ

ねえ アカショウビン来ないだろうか アオショウビン

さっきから 笛を吹き降ろすような声が

林のむこうから聞こえてくるのにねえ

ヒュー ヒュルュルュルュルューン

ヒュー ヒュルュルュルュルューン

これで三句だ

ヒュー ヒュルュルュルュルューン

ヒュー ヒュルュルュルュルューン

これで四句だ

やがて山の尾根に 二つ三つ入道雲が湧き起こる頃

ながい夢から覚めたかのように きみはからだを起こすと 

めざす淵まで 両手を拡げながら綱渡りさながらに

五つ六つと 石の上を跳んでゆく

そして とある石の上でかるいワンピースをかなぐり捨てると

ざぶんと得意の素もぐりで水に飛び込む

カワセミに化けて なにか獲物を狙っていたのか

さかとんぼりになった時 きみの背中が青く光って見えた

ねえ カワセミ来ないねえ ヤマセミ

ねえ アカショウビン来ないねえ アオショウビン

きみが水遊びにあきるまでの その数刻

ぼくは時間が止まったかのような永遠のなかにいる

                    imuruta

ぼく名は不思議人<imuruta> ここに紹介
しているのは ぼくの第三詩集<愛の新世界>
ペアを組んで ひとつの夢の世界を構成する

<月下の道>です これらの詩は遠い処から来た
それはまるで この地球に降りたつと同時に
記憶喪失に陥ったかのような 遠い夢の破片から
「私を忘れないでいて欲しい」という 何かか細い
星からのメッセージのように ぼくの耳には
聞こえました ぼくは耳の奥で呟き続ける
これらの声をここにしるしました 皆さんの耳には
​どんな風に聞こえるか分かりませんが・・

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