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真夏の夜の夢
夏の夜は ブライダル・ベールの咲き乱れる森で
きみと静かに 夢のパントマイム
今しがたまで 羊歯の葉先を揺らしていた風が
いつぞや今は きみの子白鳥のスカートの廻りを
いとも愉しげにめぐっている
ねえきみは何故うつむいている なぜマイム踊らない
呼ばれた声に振り向くと きっときみは
縫い包みの仔熊のようなぼくを見つける
ねえ 苔の上でマイムしようよ パドドゥしようよ
ところできみは 何度呼んでも何度誘っても
ほほえみを返すばかりで にぎりこぶしのようにすっかり言葉がない
おまけに 背中には蝶のような透明な羽根まで付いていて
これは 風に関係なく慄えている
ねえ むこうの沼では洋鷺が
月の光を浴びながら 月光の曲に耳を傾けていたよ
こっちの森影では甘蛙が
声をひそめて 恋のゆくえを唱っているよ
ねえマイムしようよ 夢のマイム
きみとぼくとはひとつのいのち
ぼくはもう きみが踊りだす前から 青い鏡になっているから
ひだりとみぎが違ったって それでいいのさ
アダジオから始めて パドドゥしようよ
いのちあって いのちあってのぼくらのマイム
真似てまねて まねあってたしかめあうこころとこころ
ねえマイムしようよ 夢のマイム
月の光が煌々と ぼくら二人を照らすうち
どうか 朝の光に音もなく消されてしまうまえに
こう諭して こう言い包めて
何度もなんども 月光のパッセージを指で追ううち
いつしかようやくきみも 子白鳥のようにおずおずとステップ踏みだす
ぼくは ブライダル・ベールにむせながら
静かにしずかに 真夏の夜の夢に酔いはじめる
ねえ 今度は蕗の葉の上で踊ろうよ
ねえ エトワール アラベスクして見せてよ
月がいましばらく ぼくらに見とれているうちに
imuruta
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