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ミーアハート咲く村

チロル エアハート アイガー

チロル エアハート ユングフラウ

山が呼ぶ 風が呼ぶ きみを呼ぶ

雪が呼ぶ 空が呼ぶ ぼくを呼ぶ

チロル ミーアハート モンブラン

チロル ミーアハート マッターホルン

そこここの枝で この地方でしか見られない

瑠璃色のエアハートが鳴き交わせば

その日も晴れて 居並ぶ山々からは無数のこだまが返ってきた

ここはアルプスの山ふところに抱かれた

ミーアハートの群れ咲く おき忘れぬこころの村

近くの山並みが みるみる新緑にその色を変える初夏

その真うしろにぼくがせまっているのにも気付かず

きみは 濃い桜色をしたミーアハートの花びらを

たかが うらないのためにいったい幾枚散らしただろう

チロル エアハート ナイチンゲール

チロル ミーアハート エーデルワイス

ねえ 花が可哀そうじゃないか

声におどろいて振り返るなりきみのあげた笑い声は

すぐさま 山々にこだまとなって響き渡った

道は潅木のはやしを迂回すると 向こうの丘を越して

あのこころ懐かしき リンデンバウムの木の下へと続いている

きみが まだ小さかった両手を胸の前で合わせて祈った言葉を

きっとあの木はきのうのことのように 今も覚えているだろう

ねえ はやく行こうよ あの木の下まで

あの下だけいつ行っても 妙に涼しい風が吹いて

あそこで きみの編んでくれたミーアハートの首飾り初めて付けたとき

どんなに恥ずかしかったか 今なら言えるよ

あの時きみは 両手でぼくの首に首飾りを掛けながら

これは首飾りじゃなく ブディストのしるしだと言ったのだ

いったい 東洋に旅したことのあるお爺さんの本ででも見たのか

アジアティク・ケサだと

「袈裟」なんて言葉を

ぼくでさえ何故知っていたのか

でも あの日きみのしていたネッカチーフは

たしかに東洋風なオレンジ色だった

チロル エアハート アイガー

チロル ミーアハート ユングフラウ

きみが 花びらを一枚抜くごとに唱えていたあの呪文は

ぼくは ユングフラウの方から微かにかすかに聞こえてくる

東洋くさい声に ひとしれずこころ奪われていた

ああ この道のかなた きみと夕暮れを待って

ミーアハートの一つひとつの色にみとれ

今は過去となった 一つひとつの人生を

まるで 一つひとつの詩のように

こころゆくまで語り合っていたかった

ただ あの夕闇がひとしきりぼくらを包み込むまで

きみを失ってもう何年になる

初夏の来るたび この忘れられぬ村に足を運ぶが

きみの笑い声は 山々のこだまとなって消えたままだ

ねえ はやく行こうよ あの木の下まで

もしかして まだ幼年のきみがもういちど

おさない袈裟を掛けようと 待っていてくれるかもしれない

               imuruta

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