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​風の木

君は 風の木の言い伝えを憶えているだろうか

樹齢はすでに数世紀を超え

その葉数はじつに数億

幹は七つにも八つにも枝分かれしているが

それはまるで鯨たちが押しくら饅頭しているような様相だったが

鯨たちの喧騒とはうらはらに

深山幽谷の淵にひっそりと立っていた

あるものは 映像だといい あるものは蜃気楼だともいう

だが ほんとうに正体さだめたものはいない

君は 風の木の風聞を憶えているだろうか

この広大な地球を廻るにも 風には風の道があって

ミストラルやシロッコやハムシーンが挙げられるが

マエストロやエレファンタまであって

どの風の道もかならずここを通ると云う

近くみても天津風や花信風 青嵐 雁渡しなど枚挙にいとまがないが

めぐりめぐってどうしても この幽谷に集まって来るという

そう なぜなら どの風にとっても

ここが心のふるさと ここがその出生の地だからだ

君は 風の木の伝説を憶えているだろうか

地球上には想像できるかぎりの山河があり

想像を超えるほど多種の樹木があり

その下に生き物たちのうぶな命があるが

君知るや すべてを生かしているのは すなわちこの風

一木一草 風によって動き

二木二草 風によって互いを知る

時 すなわち風が時 ここでどんな命もたがいの尊さを知る

君は 風の木の伝承を憶えているだろうか

それは 遠い昔 ふたりの僧がとある木の下で読経していた

声に声をかさね 心に心を

願いに願いをかさね 果てしなさに果てしなさを

そして ついに とある境地にたどりついた

道はここに始まり ここに終わると

風はこころにはじまり こころにおわると

そう この木の下で この花の下で

風の木 道の巣 はじめての風が旅

花の木 風の巣 千年もむかしの恋

そう すべてはこの木の下で始まった

ここに この木の下に経を読みはじめたところに

ここに この木の下に経を読み終えたところに

そう ぼくらすべてのあかしをここに埋めた

ぼくら すべてのしるしをここに埋めた

そこから すべては始まり

ああ そこにすべては終わっていた

                      imuruta

ぼく名は不思議人<imuruta> ここに紹介
しているのは ぼくの第三詩集<愛の新世界>
ペアを組んで ひとつの夢の世界を構成する

<月下の道>です これらの詩は遠い処から来た
それはまるで この地球に降りたつと同時に
記憶喪失に陥ったかのような 遠い夢の破片から
「私を忘れないでいて欲しい」という 何かか細い
星からのメッセージのように ぼくの耳には
聞こえました ぼくは耳の奥で呟き続ける
これらの声をここにしるしました 皆さんの耳には
​どんな風に聞こえるか分かりませんが・・

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