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​山ほととぎすの花

夏が来れば 思い出す

水芭蕉の花 山ほととぎすの花

あれは尾瀬だったろうか それとも五色沼

いずれ 唱歌のような既視の世界

夢みて咲いていた 水のほとり

まだふたり 肩ふれあうのさえこわかった

夏が来れば 思い出す

ゆうすげの花 ミヤマリンドウの花

あれは奥入瀬だったろうか それとも八甲田

葉陰から葉かげへと 身を隠すように

短く みじかく飛んだが

いずれ卯の花 しのび音もれる

夏が来れば 思い出す

水引草の花 山つばめの花

夏には帰ってくるといって 旅に出ていったひとは

もう 何年もなんねんも便りの来ないあの人は

夢みて咲いていた 水のほとり

あの人は あの青い丘を越えるときたしかに振り向いて笑った

明日こそわたしも風になろう 風の道に

明日こそわたしも この花のうろを抜け出そう

草の上を走ろう どこまでも水の上を

走れば走れば 草は数え切れない葉となって

まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うだろう

走れば走れば 水のおもては漣となって

わたしの目の前を 四方八方へと散って行くだろう

明日は 誰がわたしの髪を解きにやってくる

明日は もう人を待たず 

わたしが自分で 髪をほどこう

夏が来れば 思い出す

水芭蕉の花 山ほととぎすの花

夏が来るたび わたしも戻ろうこの谷に

いつか いつかその日がめぐるまで

廻れ まわれ風ぐるま こころのこころの風ぐるま

                  imuruta

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