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​寒月

山あかあかと染めた秋が過ぎれば

すすき立ち枯れ霜身をおこす宵

虫どもの声もすっかりなりを潜め

やがてこの地上は いちめんの雪の原と化そう

朽木よ朽木 おれを呼ぶのはおのが洞吹く風か

ふり仰げば月煌々と無想界にひとつ

地上にゆらめくのはその影ばかり

長き尾の銀に太りしも 瞳錐の如く細りしも

人の千倍の嗅覚を備えしも

この目前の冬を載り切るために天が与えし算段

凍てた石よ 灰色の闇を抱くものら

祈りもなく 望みもないこの雪原を

いっぴきの野鼠の思い出が欲しいばかりに

まだ走らねばならないこの身を嗤え

              imuruta

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