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​きんとと

垣根のむこうから どくとくの声で

金魚売りがやってくる夏は 

もう 夾竹桃か猿すべりのほか花もなく 

なんど打ち水しても暑いのでせめて

風鈴でも吊るしてみる

きみはというと いちはやく

きんとと模様のゆかたに着替え

どこに仕舞ってあったのか

縁側に軽い将棋盤を出してくると

一局指そうと子どもにかえって言う

ゆうべは花火 おとといは行水だったし

それで今日は将棋かと

みょうに納得しながら 駒を並べるが

いきなりきみは王手と来るので

また いちから教えてやらねばと思うが

ぜんたい将棋というものには

いちいち駒の進め方があって

一手いって指して 詰めてゆくのが道理だと諭すが

ふむふむ そんな規則ならお手のものと 

手だまなら 負けないと自信たっぷりだ

 

手玉ではなく手駒だと教えるが

まあまあ七六歩か 二六歩などと 

勝手知ったるようす 鼻で笑っている

こちらが地道に櫓を組んでいると

まあまあ仕方がないのねと言ってくる

夏は風鈴 軒しのぶ 夏は 風鈴 えのころぐさ 

夏は氷柱 懐うちわ 夏は金魚に 縄のれんと 

一手いって駒を進め出すと 何をこしゃくな 

いずれ五九の これが欲しいくせに

なにをもたもたしていると

将棋に打ち込むふりをしながら

いきなりあぐらをかきはじめると

七七の角 二六の飛車のあるうちは

まだどうにも手が出せぬだろうと

余裕しゃくしゃくの呈だ

薬師に猪の子 仏にうぐいす

飛天に羽ごろも 文殊の沢渡り

有りもしない季語で誘っているうちはよかったが

だんだん あからさまに立て膝になると

将棋盤に にじり寄ってくる

これにはこちらもたまげたが

同時に ははんこれはと思いあたった

うたわぬうぐいす いのこでちょい

羽ごろも捲くれば ほとけの沢渡りと

道理で自信たっぷりな分けだ

一四に歩か 九四に歩かなどと

つぎの指し手にまよっていると

いつのまにほどけたのか

きみは智恵の輪 エレファンティーネ

将棋盤には その日も慈愛の眼差しが注がれていた

               imuruta

これは ぼくの六番目の詩集です

<水のもの><月のものを>呼び込んでの

ジャパニーズ・バーレスクの世界をご堪能下さい

 

​明日香風 いたづらに吹く いづくにか かくだにも

見れど飽かぬ ま幸くあらば またかへり見む 

旅ゆく君と 知らませば さやく照りこそ

呼子鳥 象の中山 かねて知りせば うらさぶる

​心さまねし ひさかたの 天のしぐれの 流れあふ見れば

うるはしき とををにも 妹が心に ますらをの 

恋ひにてし 匂ふまで ゆめこの花を 風にな散らしそ

かへり見すれば 人の眉引き 月傾きぬ

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