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​伽藍堂

美は堅固に見えて じつは儚い宿命である

そして宿命はときにすぐれて 女の身姿を借りる

のみならず 美はまるで女性のようにパラドキシカルで移ろいやすい

ティツィアーノの高い精神性から

絵絹に描かれた江戸時代の肉筆浮世絵の法悦にひたる表情まで

そのモードの数々を藉りる

 

だがまた 美はけっして計算され尽くした空間からは生まれない

美はなかんづく より生理的だ 

そして美は柔らかいこころと ゆたかな感情をもつ

かつまた美はいと高きみ空から いと低き声のくぐもる闇の閨まで

あらゆる生の階梯を身に纏う

だがまた すべての定義から逃走するのも美だ

そしてこうも付け加えよう そこもて美は嫉妬をそこに宿すと

   *

鞍馬美山街道の初冬は 秋の名残りの七竈の実も稔り

この実は地獄の火で七度焼かれて こんなにうるうると紅くなったと

おお おんなは何で焼く 嫉妬の火でか

この譬えようのない地獄の火

欲しいものなどないと言いきって

いや違う おれの欲しいのは美だけなのだ言い換えて

それでも違う おんななど邪魔なだけだと

ひたすら岩絵の具に膠を注ぎ 絵筆を取って

書きかけの白鳳凰に専念するが 邪念は払えず

この先は 果て

欲しいものは欲しいと閻魔に願い出るよりないのか

しばし絵筆を置き 空け放った障子のむこうに目を上げれば 

金色の襟足に赤や黄の冠羽根ぴんと立てて

翡翠が一羽 はるか頭上からこちらを見下ろしているが

このけたたましく啼いて 未だ冬籠りも知らぬ輩

ああ 修羅の紅い実しまえば 間もなく霜月

空歩踏み 空歩踏みしてこの年も暮れれば

なんぞ師奔り おんななおさら声を高くする

声よ響け冬がらん 鞍馬の伽藍堂に美しく糸ひいて

              imuruta

これは ぼくの六番目の詩集です

<水のもの><月のものを>呼び込んでの

ジャパニーズ・バーレスクの世界をご堪能下さい

 

​明日香風 いたづらに吹く いづくにか かくだにも

見れど飽かぬ ま幸くあらば またかへり見む 

旅ゆく君と 知らませば さやく照りこそ

呼子鳥 象の中山 かねて知りせば うらさぶる

​心さまねし ひさかたの 天のしぐれの 流れあふ見れば

うるはしき とををにも 妹が心に ますらをの 

恋ひにてし 匂ふまで ゆめこの花を 風にな散らしそ

かへり見すれば 人の眉引き 月傾きぬ

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